早稲田政経2016 I 全訳
「太った男を殺しますか?」というのは」11近の著書のタイトルで,哲学者ならよく考え,心理学矜なら実験の被験者たちに問いたがる逆徳的な問題を扱っている。標準的な形ではこうだ。あなたは跨線橋の上にいて線路を見下ろしている。路面電車が線路上を疾走しており,その前方には5人が線路に縛りつけられているのが||に入る。この5人を救うことはできるだろうか? l人のとても太った男が僑の手すりから身を来り出すようにして路面電車を眺めている。もしあなたが披を橋から突き落とせば,彼は転落して奥下の線路上にたたきつけられるだろう。彼はとても太っているので,その巨体のせいで路面電車は人きく震動して停止するだろう。悲しむべきことだが。その過程で太った男は死ぬだろう。しかし,そのおかげであとの5人は助かるだろう(あなたは自分が飛び込むことで路面電車を止めることはできず。太った男だけがそれができるだけの体重があるものとする)。あなたは太った男を殺すだろうか?
たいていの人はその男を突き藩として殺すなどという考えに衝撃を受ける。しかし。その筋書きをちょっと変えると。反応は変わる。路面電車を別の線路に引き込むレバーなら。引く可能性はさらに高くなるのだ。そうすることでそちらの線路1二にいる|人だけは殺すことになるとしても。である。功利主義的な計算では同じことなのだが。しかし。殺すという行為から肉体的。感情的に距離をとれることで,はるかに多くの人がその男性を突き落とすより,レバーを引く行為を選ぶのである。
人々の判断に影響を与える方法は他にもある。どちらかというと直観に反する方法が.雑誌の「プロス・ワン」の先月号で公表された論文の中で報じられている.その論文では.スペインのポンペウ・ファブラ大学のアルベルト=コスタと彼の共|川研究軒らは.そのジレンマがどの言語で突きつけられるかで人々がどう答えるかが変わる可能性があるということを発見している。具体的に言うと,人々は太った男の質問を外国語でされると.あとの人たちのために彼を殺す可能性が高まるのである.
コスタと彼の共同研究者らは317人にインタビューをおこなったが.その全11が2カ国語-スペイン謡,韓国語.フランス語のいずれか一一つに加えて人半は英語を話す人たちだった.それぞれのグループの半数が無作為にそのジレンマを雌川語で与えられた.残りの半数はその問越に第二丿語で答えた.母国語で尋ねられた場合,太った男を突き落とすと答えたのは被験者のわずか20パーセントだった.外国語で尋ねられると.その比率は33パーセントに跳ね上がったのである.
道徳的に言うと,これは悩ましい結果である.ジレンマがどの言語で突きつけられるかで,それにどう答えるかに差など出ないはずである.言語学者は,異なる言語では倫理観に関して異なる前提をコード化するのではないかと考えてきたし.それでその結果の説明がっくかもしれないI,しかし.その影響は.研究者が調べたどの言語の組み合わせでも存在したので.文化では事の説明はつかないようだ.「トロリー学」の他の研究では,束アジア人は冷徹な功利主義的計算をする可能性が低いことがわかっており.実際に.韓閥人の被験軒は皆.韓国語で問われると.その太った男を突き落とすだろうとは言わなかった.しかし,英語で問われると. 7.5パーセントの人はそうする覚悟をしていたのだ.
その説明は,ある外川語が単によくできるだけか,流暢にしゃべれるかの述いにあるのかもしれない.その実験の被験者たちは生まれつき2カ川語を話せたわけではなく.’1£均して14歳から外川語を刊い始めていた(被験行のヽ|゜均年齢は21歳だった).実験に参加した人たちは大体. n分が身につけた語学力を5点満点で3に近い程度だとしていた.その人たちの語学力は言い換えると.かなりよいが.卓越しているというほどではなかった.
人がどうやって決定を下すかに関する研究で2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル=カーネマンを含む何人かの心理学者は.脳は二つの別個の認知体系一片方は素早くill:観的に決定を下すためのもの.もう一つはじっくり,もっと筋の通った選択をするものーを使用すると考えている.この二つは対立することがあり.トロリー・ジレンマが引き起こすことを||的としているのがそれである.普通の人は殺人に対して強い道徳的嫌悪感を抱く(111C知的体系で)が.それでも1人の死の方が,数学的見地から言うと,5人よりはましなのだ(論理的思考体系で).
この最新の研究は.外国語を話すことで二つ目の体系が活発になることを示唆する別の研究とも一致するーもっとも.それはつまり,あなたが外国語を母国語ほど上手に話せない場合は.ということだ.この新たな研究をおこなった,同じ学名・たちの何人かによるもっと以前の研究では.外同語で純枠に論理的なテスト―特に.わかりやすいが間違った答えと,觧くのに時間がかかるが正しい答えのある質問では.さらに成績がよくなる傾向があることがわかっている.
コスタと彼の共同研究者らは,流暢にしゃべれる人は何の苦もなく文を作ることができるが,単に語学力があるというだけの人たちは,なじみの薄い41‘謡で頭を働かせる際は,さらに頭を使い.注意深く推論するにちがいないとの仮説を立てている.さらにそういう類の思考は.太った男をレバーで置き換えるのとほぽ同じように.心理的かつ感情的に距離をおくのに役立つ.その考え力をさらに実証するものとして.研究者たちは外国語を話すことによる影響は.話者がその言語にさらに桁通するにつれて小さくなると指摘する.
その研究チームの様々な発見の背後にある心的メカニズムが正確にはどのようなものにせよ,それには大きな意味合いがある.シカゴ大学の心理学者であるボアズ=キーサーはその研究の著者のI人だが.医療や法律分野での意思決定に及ぼす影響を研究をしていると語る.その一方で,グローバル化により2カ川語を話す人たちの数は増えている.母語ではないが英語を話す人(ある推定では5億人)の方が,母語として英語を話す人(おそらく3億4 千万人)より多いのだ.大企業は英語を,たとえそれが従業員の大半の雌語でなくても,社内の公用語にしようとしている.閥連や欧州連合のような国際機関の会議は出席者の大半が好む言語ではない言語でおこなわれることも多い.おそらく.その会談は一言語だけ話す人たちの会議より冷静に理にかなったものとなるかもしれないと思うと心強いだろう―つまり.あなたがそのたとえで言うところの,今にも突き落とされて列車の下敷きになろうとしている太った男でなければ.の話である.
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